サプリメント大国アメリカの品質と安全性の背景にある『ヘルスリテラシー』の重要性
- 2024/6/14
- ライフスタイル
昨今、感性症の流行で健康意識は高まり“サプリメント市場”は拡大した。ビタミン・ミネラルなどの基礎栄養に対する需要は依然として高く、流行時の特需こそ落ち着いたが現在でも国内外問わず緩やかに成長を続けている。そんなサプリメントは日本においても健康維持の手段として浸透してきているが、市場規模はサプリメント大国として知られるアメリカと比べると遅れをとっているのが現状だ。その要因と言えるのが日本の『ヘルスリテラシー』の低さ。ヘルスリテラシーとは、健康や医療に関する情報を入手し、理解、活用するための能力のことで、国際的に注目されている概念。今では世界のトップシェアを誇るアメリカも、以前は今の日本同様、サプリメントや健康に関する国民の意識が薄く、市場も低迷していたが、成長の背景にあるのが国民一人一人の健康意識。国民の意識の低さに危機感を持った政府が法改正など国をあげた改善によって、消費者のヘルスリテラシーが向上。健康食品への購買意欲が高まり、結果として、毎年6~7%程市場は伸び、さらに品質の高さにおいても世界基準といわれるほど群を抜くサプリメント大国へと成長したのだ。
そこで今回、日本とアメリカにおけるヘルスリテラシーや品質管理の差、アメリカのサプリメントの品質と安全性の高さについて、一般社団法人日本健康食品・サプリメント情報センター(Jahfic) 理事・宇野文博さんに話を伺った。
【プロフィール】
セミナー講師/一般社団法人日本健康食品・サプリメント情報センター 理事 株式会社 同文書院 代表取締役 宇野 文博(うのふみひろ)氏
1983年慶應義塾大学法学部卒業。1989年ニューヨーク大学大学院スターンスクール卒。MBA 取得。凸版印刷アメリカ勤務、米国シンクタンク The Progressive Policy Institute 病院のM&A担当を経て帰国。1991年株式会社同文書院グループ入社、2001年株式会社同文書院代表取締役就任(現職)、2011年一般社 団法人日本健康食品・サプリメント情報センター 理事就任、2018年2月健康食品・サプリメントの健全な流通を考える会発起人。現在、株式会社 BECENMJ・株式会社 DBS 代表取締役、一般社団法人 日本健康食品・サプリメント情報センター、健康指導支援機構理事、また日本自然科学書協会、日本栄養学教育学会幹事を務める。
現職に就任後、健康食品の安全な利用等を推進するために、企業、大学向けに講演活動を行う。2017年4月認定薬剤師制度の集合・実習研修実施機関に登録後は、都道府県および市町村の薬剤師会での講演も多数行っている。
日本は他国に比べヘルスリテラシーが低い傾向、その理由とは?
ヘルスリテラシーに関するさまざまな測定方法の開発が進められる中、最近では一部の指標を使って国別の比較も行われている。それらの調査において日本はアメリカやアジア諸国など世界各国に比べてスコアが低い傾向にあることが分かった。ヘルスリテラシーが低いと適切な予防方法の知識が少ないため、疾病を未然に防ぐことが難しく、それにより症状が悪化してしまい結果として医療費が高くなる、というように様々な面で悪影響を及ぼし、大きなケガや病気に繋がってしまうことも考えられる。日本のヘルスリテラシーの低さの主因は、他国と比べて個人のヘルスリテラシーを向上させる必要が比較的少ない状況にあったことが考えられる。日本人は他国に比べ、比較的容易に医療にかかれる環境下にあり、「病気になったら、病院へ気軽に行ける」という感覚がヘルスリテラシーの向上を阻んでいると推測される。アメリカなど一部の国では、加入する保険や登録医師の紹介が必要になるなど、好きな病院に自由にかかることができない。一方日本は「フリーアクセス」で病院にかかることができ、また日本は国民皆保険により費用負担額が抑制される。このような国は非常に珍しく、「病気になったら病院へ気軽に行ける」という日本の特性にはこのような背景によるものと考えられる。
諸外国のように「病院に行くとお金がかかる」「医療の質も高くない」となれば「病気にならない方法は何か」と自ずと考えるようになる。その結果、二人三脚で向き合ってくれる“かかりつけ医”のような先生を頼り、病気にならない方法を一生懸命に聞くようになる。また、それに応えようとするかかりつけ医もより多くの正しい情報を集めようと努力する為、結果としてヘルスリテラシーの向上に繋がるのだ。現在日本でも国民皆保険制度の持続問題や医師の働き方改革など、医療業界において様々な問題が挙がっており、ヘルスリテラシーの向上を迫られる可能性が高くなってきた。一般社団法人日本健康食品・サプリメント情報センター(Jahfic)も国民のヘルスリテラシーの向上などを目的として設立され、医療従事者や一般企業でも健康相談窓口の設置や、健康に関する勉強会など、ヘルスリテラシーを高めるための取り組みを行っている。
健康意識の変化がサプリメントの品質向上、市場拡大に影響
アメリカは1994年に国民が自力で健康を守れることを目的としたDSHEA法(栄養補助食品健康・教育法:Dietary Supplement, Health and Education Act)という法律を施行。この法律は、『ダイエタリーサプリメント』(≒健康食品)の有効性を表示できるようにすることにより、消費者のヘルスリテラシーを向上させ、疾病を予防、医薬品に頼らないようにしようという主旨で設けられたものだ。施行後は大手ドラッグストアチェーンを中心に、サプリメントの適切な販売が始まり、中小ドラッグストアにおいては、地域の“かかりつけ薬剤師”のような役割を担うようになるなど、消費者だけでなく医療従事者のリテラシーの向上にも繋がった。当初はアメリカ国民の健康を守り、医療費を抑えることが目的だったが、消費者のヘルスリテラシーが向上することで、健康食品への購買意欲が高まり、健康食品市場の拡大にも繋がった。
世界基準といわれるアメリカの品質管理
世界でもっとも権威あるデータベース『Natural Medicines Database』(NMDB)
ヘルスリテラシーを高めるために大きな役割を担っているのが世界でもっとも権威あるデータベース『ナチュラルメディシン・データ ベース』(NMDB)。NMDBは1998年に完成し、2016年にNatural Standardを吸収合併して現在に至る。世界中の健康食品、サプリメント、自然食品の有効性や安全性、医薬品との相互作用などを、エビデンスによって、システマティックにレビューが行われており、健康食品に関して、世界でもっとも権威ある科学的根拠データベースである。NMDB は、医師や薬剤師、管理栄養士や理学療法士など、「食」と「健康」に仕事として携わっている人々が診察時間の短い中で端的にわかりやすく、患者さんへ伝えるために参考とされているので、医師や薬剤師との接点を持つきっかけとしても活用されている。また、アメリカの陸海空軍や、NIHのデータベース「Medline Plus」(National Library of Medicine 内)など、医療現場をはじめエンドユーザーが自身の健康を守るための参考資料としても利用されるなど、利用者の幅広さからも 頻繁に利用されていることが推測できる。情報は世界共通であり、日本版をJahficが編集しているが、まだまだ日本ではデータベースを積極的に利用する文化が育っておらず、日本とアメリカでは利用頻度に大きな差がある。しかし、前述の通り今後はその流れが変化してくるものと予想される。
アメリカで適用する最新の評価基準「cGMP基準」
アメリカでは製造工程において、「cGMP基準」(current Good Manufacturing Practice:現行『医薬品等の製造管理および品質管理に関する基準』)をクリアした工場で製造されたもの以外は、ダイエタリーサプリメントを名乗り、販売することを禁じられている。GMPとは、製造における人為的な誤りを最小限にとどめること、医薬品の汚染と品質変化を防止すること、高度な品質を保証することの 3 点を目的とした、医薬品の製造とその品質管理に関する国際基準のことを指しており、cGMP基準は、現在アメリカで適用されているGMP、すなわち最新のGMPを意味する。誰が製造しても、成分のばらつきや変化、異物の混入などが起こらず、安定した品質の商品を製造できるようにすることを目的に、原材料の入荷、製造、出荷まですべての過程を徹底的に管理したもので、そのガイドラインは815ページにも及ぶ。 また、ダイエタリーサプリメントには、健康を維持、保持する効果・効能がある一方、使用量を間違いや、異物が混入した際に重大な事故を起こしてしまう可能性があるため、事故を起こさないよう正しく認識してもらうためにこのような基準が定められている。つまりcGMPとは「商品の品質を保つ」ためだけではなく「人の命を守る」ために作られた基準なのである。日本でも、Jahficが行っていることの一つに「ハイクオリティ認証」という制度がある。これは、NMDBの内容や、日本で報告された健康被害症例などに基づき、健康食品・サプリメント製品やその製品を構成する原材料の品質と安全性を確認・認証された商品には「認証マーク」を表示することができる制度で、その認証マークを取得するための基準として一部のランクを除き「cGMP基準」を使用している。
アメリカ基準のサプリメント摂取習慣で医療費が削減したという調査データも
アメリカの CRN 財団(the Council for Responsible Nutrition が有する非営利財団)の調査による「アメリカにおけるダイエタリーサプリメントによる医療費適正化効果」の結果によると、アメリカで医療費の多くを占める「冠動脈心疾患」「認知症」「加齢性眼疾患」「骨粗鬆症」などにおいて、「ダイエタリーサプリメント」の摂取習慣が医療費の削減につながっていることが分かった。(出典:『Supplements to Savings』2022|CRN FOUNDATION| https://www.crnusa.org/sites/default/files/HCCS/00-CRN-Supplements-to-Savings-2022- FullReport.pdf))これは、cGMP のルール下で流通した製品の摂取が、医療費の適正化に寄与していることを示す結果といえる。
サプリメント市場はさらに拡大を続ける一方、消費者一人ひとりの健康意識が重要
「cGMP基準」やFDA(Food and Drug Administration、アメリカ食品医薬品局)による未告知の立入検査など世界一厳しいとされる品質管理のもと、医薬品に近い位置づけとして流通するアメリカ製サプリメントだが、そんなアメリカでさえ、健康食品が原因で年間2.3万件もの緊急搬送が起こっていると推定されている。原因の一部として特徴的なのは「医薬品と健康食品・サプリメントの相互作用」だ。何かしらの疾病に罹患し、医薬品を服用している人がセルフメディケーションの一環として健康食品やサプリメントを服用した際、思わぬ相互作用を発生させ、重大なものでは死亡するケースもある。「医薬品と健康食品・サプリメントの相互作用」自体の認知度が低いため、日本では原因として検証すら行われないことが多い一方、NMDBではこのような「医薬品と健康食品・サプリメントの相互作用」の情報が網羅的に掲載されており、アメリカの医療現場では多く活用されている。今後も健康志向により、国内外において健康食品市場は拡大していくだろう。サプリメントはどれも同じという考えではなく、サプリメントに関する正しい知識、理解をし、高い品質管理基準の下で作られた安全・安心なサプリメントを摂取することが重要だ。これからは一人ひとり、ヘルスリテラシーを高め、病気にならないための意識改革が必要である。
アメリカの実例から、国民のヘルスリテラシーの向上がサプリメントの品質管理や安全性の向上、市場拡大にも影響することがわかった。サプリメントは自己判断で利用できる分、その効果だけでなく飲み合わせや副作用などについて正しい知識と理解が必要だ。病気を予防、延いては健康寿命を延ばすためにも、自分自身の体は自分で守るというひとりひとりの意識が重要となるだろう。