博報堂、トークセッション 「答えのない時代について話そう 社会課題とクリエイティビティ」を開催

博報堂DYグループは、クリエイティビティによる新しい視点や発想から、さまざまな社会課題に対してアクションを起こしてきた。その事例をもとに、社会課題解決の手法や実装法を紹介した書籍『答えのない時代の教科書 社会課題とクリエイティビティ』を2023年8月31日に発売。書籍化を記念し、去る9月28日には博報堂の旧本社跡地「HASSO CAFFÈ with PRONTO」にてトークセッション 「答えのない時代について話そう 社会課題とクリエイティビティ」を開催した。

「役職」を背負って働く一方で「生活者」の意識を忘れないこと

トークイベントの第一部では、近山 知史氏(株式会社博報堂 エグゼクティブクリエイティブディレクター)と小谷 知也氏(『WIRED』日本版 エディター・アット・ラージ)が登壇。「これからの社会課題解決に、なぜクリエイティビティが必要なのか?」をお題に、ディスカッションが行われた。

近山氏はクリエイティブディレクター(CD)として、テレビCMやポスター、SNS広告など、クライアント企業のデジタル/リアルにおけるさまざまな広告制作やプロモーション戦略を手がけている。

そんななか、「最終的には誰にどのように伝え、何を届けていくかを考えるのが、CDにとって重要なこと」だと述べる。また、最近ではグローバル企業の広告プランニングに加え、自治体や政府と民間を繋げる「官民共創」のプロジェクトにも携わっているという。

「どんな仕事であっても、社会をより良くしていくという大義は変わらない。1つの課題に対し、1社だけでなく、官民それぞれが手を取り合い、共創していくことが大事になる」(近山氏)

小谷氏は「ビジネスパーソンは基本的に役職を背負って仕事しているが、その一方で生活者であることも忘れてはならない」とコメント。近山氏は同調するように「CDとして企業の広告制作をやってきたが、根っこの部分は生活者であることを念頭に置きながら仕事に取り組んでいる」と話す。

また、「クリエイティビティの力を最大限に生かし、スケールの大きいことをやっていきたい」と近山氏は続ける。

「世界最大のクリエイティビティの祭典が『カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル』だが、そこには国単位のプロジェクトもどんどん出ている。他方、日本の政府発の取り組みは見たことがなく、もっとクリエイティビティを活用して、世界にも通用するような取り組みもやっていけたらと考えている」

「ノッカル」に見る“三方よし”の座組みづくり

小谷氏は書籍『答えのない時 代の教科書 社会課題とクリエイティビティ』の紹介を行った。

博報堂DYグループの携わった社会課題解決の11事例について、どういうアイデアの発想から具体化し、プロジェクトを実現させたのか。クリエイティビティの着眼点やそのヒントが詰まっている本であり、「新しい社会課題の解決には、クリエイティビティが鍵となることが見て取れる内容になっている」と小谷氏は説明する。

いくつかの事例もセッションの中で取り上げた。まずは富山県朝日町の新しい公共交通サービス「ノッカル」だ。

高齢化が進む同地域では、運転免許返納者が増加。少子高齢化が進み、地域住民の免許返納後における交通手段の選択肢として、住民同士のマイカー乗り合いサービスを提供するのがノッカルになっている。

「クライアント、地域、そして博報堂の“三方よし”の座組みづくりは非常に秀逸だと感じた」(小谷氏)

近山氏は「担当者とクライアントの思い、朝日町と博報堂の思いが、それぞれうまくつながって生まれたのがノッカル。高齢者の免許返納問題は朝日町だけでなく、日本全国の問題だと捉え、取り組んだのが背景にある」と言う。

小山氏は「『WIRED』ではテクノロジーを題材に扱うことが多く、『都市のスタンダードを持ち込んでもダメ』というのを担当者から聞いてハッとさせられた。地域のバスやタクシーを運営する零細企業が、ライドシェアによって衰退してしまうばかりか、採算が合わずにライドシェア自体が撤退してしてしまえば、移動手段が何も残らなくなる」と意見を述べる。

いかにサスティナブルに、生活者が自走していけるような仕組みを作ることが大事なのかを学んだという。

クリエイティブディレクターの役割も時代とともに変化している

2つ目の事例が「注文をまちがえる料理店」だ。

認知症の人でも社会参加できる場を作り、“飲食店では注文を間違えてはならない”という世の常識に別解を示した取り組みとなっている。認知症の人がスタッフとして接客するゆえ、注文を聞き間違えたりホットコーヒーにストローをさしたりと、通常のお店では“間違い(ミス)”と捉えられることでも、「注文を間違えてもいいじゃないか」という新しい視点を提示したものだ。

クリエイティビティの勘所について、近山氏は「どれだけ『世の中と握手できるか』をすごく意識している」と語る。

「『注文をまちがえる料理店』は認知症における社会課題にアプローチした取り組みだが、お店に行くと楽しい、面白い、新しい発見がある。そう思ってもらえるような体験設計を心がけた」

セッションを総括して、近山氏は「CDの役割の変化も時代とともに変化している」と話す。

入社した当時は「企業」のマーケティングやプロモーションと向き合っていたものが、現在は会社全体の「事業」の悩みと向き合うことが多くなっているそうだ。さらに今後は、「社会課題」と向き合っていくことが大事になると述べる。

「社会課題の解決に挑もうとすると、ステークホルダーが複雑に絡み合い、なかなか前に進まないことがよくある。そうしたときに、アイデアやクリエイティビティが必要になるわけで、それらをいかに取り入れ、具現化していけるかが肝になってくる」

小山氏は「グッド・アンセスター(よき祖先)」というキーワードを出し、未来を生きる人々にとって、不都合な社会を作らないためにも、現状の社会課題の解決に取り組んでいくことが重要だと語った。

脱炭素のアクションを“自分ごと化”できる指標を作成

後半の第二部では、生澤 一哲氏(三井物産株式会社 エネルギーソリューション本部 Sustainability Impact 事業部 新事業開発室室⻑)と嶋 浩一郎氏(株式会社博報堂 執行役員/博報堂ケトル 取締役 クリエイティブディレクター)が「なぜ三井物産は博報堂と社会を変えようとしたのか?」をテーマに議論を深めた。

三井物産と博報堂による共同プロジェクト「Earth hacks」は2022年からスタート。生活者が“自分ごと化”して脱炭素につながるアクションに取り組める社会を目指すため、脱炭素社会を推進する共創型プラットフォームとして立ち上がった。

生活者の、脱炭素に対するパーセプションチェンジ(態度変容)を促すため、商品やサービスを選ぶ新たな基準となる“指標”が「デカボスコア」だ。デカボスコアとは排出CO2相当量の“削減率”を可視化したもの。誰でもわかりやすい指標を作ることで、生活者が脱炭素関連の商品やサービスを選ぶひとつのきっかけになるわけである。

「『CO2排出量をどれだけ削減できているか』というのを可視化することで、商品の割引やポイント付与といった施策にもつなげられる。現在、80社を超える企業に導入いただいて、デカボスコアが表示されたアイテムは160以上に達している」(生澤氏)

デカボスコアは環境価値をはかる上で、生活者の正しい物差しとなり、デカボスコアの採用企業が増えるほど、正しい競争が生まれるという好循環を作っていくわけだ。

“答えのない時代”だからこそ、クリエイティブジャンプが重要に

嶋氏は「企業の社会貢献活動は、みんなが集まれる『場』を作るのが大切」だと述べる。

それに対し、生澤氏は「大手企業からスタートアップ、自治体などを巻き込み、さまざまなパートナーと連携しながら”デカボ”な取り組みを増やしていきたい」とコメントした。

具体的な事例としては、廃棄された子供のおもちゃをアップサイクルして作った時計や、オーストラリアの天日塩を原料に製造した食用塩、造船所の足場を再利用したテーブルなど、さまざまな商品がある。

「Earth hacksでは中立性を重視しており、企業からも『自社で脱炭素の取り組みは発信しづらいが、第三者が脱炭素のアクションを推進してくれると非常に助かる』とポジティブな意見を多くもらっている」

嶋氏は生活者が脱炭素に貢献できる持続的な仕組みづくりについて、「“答えのない時代”だからこそ、別解を生み出すクリエイティブジャンプが重要になる。これからも三井物産とともにEarth hacksの取り組みを加速させたい」と抱負を語る。

生澤氏は「博報堂のクリエイターは実現可能性よりも、とにかくいろんなアイデアを持ってきてもらうため、そこから新たな視点が生まれる」とし、「サスティナブルに関する企業の枠組みやルール作りがさらに進めば、社会的意義だけではなくビジネスとしても市場が形成されうるのでは」と意見を交わした。

企業や生活者による「サスティナブルな社会が重要」という意識の高まりはあるものの、いかに社会課題と思わせずに、人間の“欲望”に訴えかけられるか。社会課題に目を向け、解決していくにはクリエイティビティが必要不可欠というのが、本イベントで提示されたメッセージとなった。

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